イタリアの街並みを歩くと、目を奪われるのは建物の壁──特に、ローマやヴェネツィアのそれは、崩れかけているのに、むしろそれが魅力に感じられます。これは日本の「きっちり」仕上げの文化とはまったく異なる世界です。その美しさの源が「マルモリーノ」にあるとしたらどうでしょう。
マルモリーノとは、石灰と大理石粉末を主成分とするイタリア伝統の漆喰仕上げで、光沢と深みを併せ持つ仕上がりが特徴です。
職人の手と風化が生み出すアート
ヴェネツィアでは古くから、このマルモリーノが建物の内外に広く使用されてきました。専門書である『L'arte dello stucco』によれば、マルモリーノはかつて都市の健康を守るための必須技術であり、その技法は日々の施工の中で磨かれてきました。
15世紀から17世紀にかけての建築──特にサン・マルコ広場周辺──では、今も雨風にさらされながらもなお美しさを保つマルモリーノの壁面が見られます。これは単に装飾的な目的だけでなく、潮湿な環境下でも劣化しにくいという特性から重用されてきた証です。
ローマのトラステヴェレ地区に足を運ぶと、古いアパートメントの外壁に、何層にも塗り重ねられたマルモリーノの痕跡を見ることができます。過去の色や質感が剥がれた部分からのぞき、建物が“時”をまとっているように感じられます。


歴史と精神性のなかで生きるマルモリーノ
パラディオの記述と伝統構造


16世紀の建築家アンドレア・パラディオは、自身の著作『建築四書』の中で、マルモリーノの層構成について触れ、光沢と厚み、そして壁が“呼吸する”構造を称賛しました。これは、素材が環境に呼応しながら変化し、美しくなっていくという概念に通じます。
ヴェネツィアのサンタ・クローチェ地区では、海風や湿気によって変色したマルモリーノの壁が、むしろ街並みに馴染み、美的な一部として成立しています。修復ではなく「そのままにしておく」ことの意義が、ここでは感じ取れます。


部分補修の美学──芸術としてのパッチワーク
たとえば、18世紀末に修復されたカ・レッツォーニコの天井装飾では、マルモリーノの層の中に、時代の違う補修跡が意図的に残されています。それが歴史の「継承」を視覚化する手段になっており、空間に奥行きと物語性を与えているのです。
マルモリーノの補修では、完璧な一致を目指すのではなく、補修の「違い」を尊重します。『L'arte dello stucco』でも、「違いを残すことが職人の倫理」と記されており、それがパッチワークのような美しさにつながっているのです。


日本に伝えたい「不完全の美」
日本でもイタリア漆喰の人気は高まっていますが、現場では高精度かつ均質な仕上がりが求められることが多いのが実情です。私たちは、日本のお客様のその感性と要望を深く理解しています。
弊社では、細部に至るまで緻密な納まりと、補修における配慮を徹底しています。そのうえで、イタリアのように「経年変化を味わいとする」感性も取り入れ、文化の融合による“良い塩梅”を目指した施工を心がけています。
それは、ただラフに仕上げることではなく、「美しく歳を重ねていく空間を設計する」こと。マルモリーノは年月とともに自らの物語を語りはじめ、補修の痕跡や光の変化が、新たな美しさを生み出します。

まとめ
- マルモリーノは、ラフであることが風化の美を引き立て、街に独特の表情を与えている。
- イタリアでは、部分補修も「違いを記録する」価値ある行為とされている。
- 漆喰には、単なる塗材を超えた文化と精神性が宿っている。
- 弊社では、日本の精緻な施工ニーズに応えながら、経年の味わいも活かした空間づくりを実践している。
イタリア漆喰の魅力は、「変化を許容し、美として昇華する」その姿勢にあります。
スタッコプラスでは、こうした伝統美を日本の暮らしの中にも届けていきます。お気軽にご相談ください。



